「木を知り・木を使い・木を活かすvol.9」がスタートしました。

「木を知り・木を使い・木を活かす」東京大学大学院木質材料学研究室展は、2010年以来今回で9回目を迎えました。

今回も、研究室内で行われる五月祭木質パビリオンの設計コンペティションを勝ち抜いた２作品を、5610番館正面で展示しています。

「木造を学ぶうえで、まずは自分で木を触りながら色々試して自分で作ってみることが原点」という前任の稲山正弘教授の考えからはじまった木質パビリオンの設計コンペティションですが、今年からは、木材が元々備えている物性を活かしつつ、新たな性能を付与したり欠点を補ったりした材料の開発研究を進める青木謙治教授の指導のもと、新たな1ページがはじまりました。
最初に、完成後の記念撮影よりご紹介します! 1位の「噛嵌/KAMIKAN」（設計者=矢島瑞己さん /棟梁＝荒井空良人さん、中村匠人さん）です。

２位の「TwinTwist」（設計者=秋澤周さん/ 棟梁＝清水まこさん）。

次に、4月に行われた設計コンペティションの模様から完成までを駆け足でご紹介していきます。今年のテーマは「国産材204材を用い、どこかに嵌合（かんごう）接合を持つ架構による屋根付き休憩スペース」です。模型を提示しながらひとりずつプレゼンテーションをし、その後、質疑応答をはさみながらコンペティションはすすんでいきます。

今回は13名がエントリー。

プレゼンテーションが終わると投票の前の熟慮の時間に入ります。

どの作品も実際に見ていみたいと思わせる力作がそろいました。

模型をみながらここでも談義が始まります。

そして２回の投票を経て、接戦を制したパビリオンはこちら。１位は学部４年生の矢島さん（左）、２位は修士1年秋澤さんの作品に決定しました。この後、棟梁（製作担当責任者）が決定し、五月祭に向け「材料の発注→加工→組み立て作業」を約4週間という短い日程で全て学生たちの力で行っていきます。

6月16日の建て方（組立て）は、梅雨入りしたばかりだというのに、真夏を先取りしたような気温の中での作業となりました。「噛嵌/KAMIKAN」は、棟梁の荒井さんが指示をしています。
五月祭で一度組み立てられたパビリオンは、5610への移築を見据えて解体されます。

L字型に組まれた状態で搬入されました。

床に取り付け、真ん中で繋ぎます。

倒れないように支え棒も用意し、準備に抜かりがありません。


嵌合接合（かんごうせつごう）とは、木材をはめ合わせて接合することで、法隆寺などでも使われている木造建築の骨組みを支える方法で、後世に伝えていきたい日本古来の技術のひとつになります。嵌合（かんごう）がテーマになることは今回がはじめだそうです。横棒の梁を木槌で貫通させて繋いでいきますが、合わせるのが非常に難しい。
「どこかに嵌合接合を持つ〜」と一部に使用していれば条件を満たすところ「噛嵌/KAMIKAN」は、床留め以外ビスは使用していないという徹底ぶり。柔らかい杉材がめり込みながら部材に嵌ることで、極めて強固な接合性能を発揮しているとのこと。

木材の嵌め合いのみによる構造のため、高い精度の加工が必要になります。


部材の確認する棟梁。青木教授がそばで見守ります。
２位の「TwinTwist」も見ていきましょう。こちらも最初は床作りから。
棟梁の清水さん。道路に向かって傾斜がかかているので、それを考慮してのベース作りになります。


「TwinTwist」の基本フレーム。互いに逆方向のねじれを抑制する斜材を用いることで荷重が一箇所に集中することを避けた設計になっているそうです。

最初に２段目を組み上げ、それを持ち上げて１段目を設置します。
３つの柱が設置されたところで天井を組み上げます。
最後に合わせるのが難しいと青木教授。

無事に組み上がりました。

5610での展示では、早稲田大学田中智之研究室（担当者：中薗創さん/江藤遥香さん）との協働で、架構の間に組子と椅子を設置するデザインになり、屋根に六角形の組子が付けられます。

組子の模様は「帝つなぎ」を参考にされたそうです。上から落とし込みます。

調整をして見事におさまりました。

華やかさが加わり、パビリオンと調和したデザインになっています。


後日、「噛嵌/KAMIKAN」も同研究室（担当：松島英里さん/中山陽南子さん）との協働で、「ゆらぎと噛嵌ー木構造の中に生まれる居場所」をテーマに、ベンチとオーガンジーを用いたカーテンが展示されました。



早足でご紹介しましたが、今回も定義に裏打ちされた構造の美しさと、自分で作ってみることの大切さを改めて教えていただきました。みなさん暑い中ありがとうございました！
展示は、7月1日（火）までとなります。5610番館建物内のスパティオでは、模型も展示しています。会期中は、研究室の学生さんが交代でいらしてくださっていますので、ぜひ直接お話を伺ってください。
「木を知り・木を使い・木を活かすvol.9」東京大学大学院木質材料学研究室展6月17日（火）〜7月1日（火）11:00 〜17:00